ANKO DESIGN

あんこさんのトレードマークといえば、「手ぬぐい」です。
その昔、大島の女性は椿油で黒髪を手入れしており、とても艶やかで美しい魅力あるものでした。そんな大切な黒髪を保護するために島の女性は日常的に手ぬぐいを被る習慣がありました。その手ぬぐいを“カブリテノゴイ”と呼び、通常の汗を拭いたり手を拭ったりする“テノゴイ”や入浴用の手ぬぐいをさす“ユテ”と区別し、デザインの優れたもの、新しいものが選ばれていました。

その中でも藍染めの手ぬぐいで、シンプルで素朴な図案が染め抜かれた伝統的な織物の被り手ぬぐい「ソーメン絞り」は祝い事の時に着用され、特に大切にされていました。
天皇陛下の御前でさえ着用が許されたと伝えられていることから、島の女性にとって、“カブリテノゴイ”は特別なものであったと想像できます。

しかし、終戦後から昭和30年代にかけて急速に都心との交流が進み、独特な風俗は次第に消えていきます。

今回、そんなあんこさんにとって大切なアイテムだった「手ぬぐい」を島外のデザイナーさんの視点からデザインすることで、新たなあんこさん像や切り口を模索しながら提案していきたい。そんな思いから本企画がスタートしました。

大島からイメージするもの

今回デザインをお願いしたのはイベント企画や、プロダクト企画デザイン、美術制作、空間演出装飾等、多方面で活躍されている岡井さんです。

編集部
岡井さん、今回は素敵なデザインをありがとうございました。早速ですが、今回デザインをする上でポイントにしたことを教えてください。

岡井
こちらこそありがとうございました。さて、デザインのポイントですが、私が大島出身ではなく、何度か大島を訪れる程度のいわゆる“観光客”的な立場であることから、伝統などはあまり意識せずに事前に提供いただいた資料を拝見しながら独自にイメージを膨らませていきました。

そんな中で、大島は伊豆諸島最大の島で、デザインを検討する上で様々なポイントがあると思うのですが、やはり大島町の花でもある「椿」を軸に検討を進めることとしました。

編集部
今回、大島が都心からのアクセスの良さを活かして「行きつけになれる島」というブランド価値のもと、また、ペルソナ(象徴的顧客像)を“都心で働き、女性誌のライターとしても活躍するショートカットの利発そうな30代都内在住の都会的な女性”と設定したのですが、そのあたりも意識していただいたんですよね。

岡井
そうですね。20代後半〜40代ぐらいの方に手にとっていただけるようなものをイメージしています。また、手ぬぐいというプロダクトに落とし込んだ際に、やはり普段使いできるお土産になるものを意識しました。

椿の花をシンボルに

編集部
そんなポイントを意識しながら作業を進められたとのことですが、最初に取り掛かったのは椿の花のデザインですか?

岡井
そうですね。椿(カメリア)はファッションでもモチーフとしてよく使用されています。
世界中で愛され、女性を表現する際にも用いられることが多く、椿から取れる椿油などの製品もやはり、女性に好まれることが多い。なので、この椿を中心にデザインを進めました。

編集部
そして、こちらがその椿をモチーフにしたデザインですね。様々なパターンがあってどれも特徴的で面白いですね!

岡井
はい、ありがとうございます。左上から右へ順番に説明させていただきますね。

最初の作品は5枚の花びらを円の図形のみで構築していて、少しずらして規則性を和らげています。

次の作品は全てがハートの形で描いた椿になります。大島愛(LOVE)を表しています。
その次の作品はより椿らしさを出すために葉も入れたものになります。

続いて、伝統柄である市松模様を、現代のピクセルと考えてまるでゲームのキャラクターのように椿を描いています。パターンを展開することで無限に図柄が繋がります。

下の段の左の作品にいきまして、こちらは椿の花というよりも、カメリアという表記が近いかもしれません。花自体にファッション的デザインを落とし込みました。

続いての作品は10枚の円で構築して一番椿らしさを出しています。少しラフに組むことで、図形っぽさを消しています。

最後の作品はその前の作品を整理したバージョンといったところです。使用目的が変わっても使いやすくなるようにしています。

編集部
ありがとうございます。椿と一言で言っても様々な切り口があって、それらをデザインに反映していくことで、いろいろな形に落とし込めるのですね。今回7作品作っていただいたおかげで、そのことがよく分かりました。

続いてはいよいよ手ぬぐいのデザインになるわけですが、こちらもたくさんのパターンをデザインして頂きました。こちらも作品ごとに解説いただけますか。

手ぬぐいをデザインする

岡井
はい、では順番に説明していきますね。

あんこさんの着物にも見られる伝統的な柄である市松模様を現代の近しいもので表現を考えた際、ゲームなどのグラフィック表現に用いられるピクセルにはまると考え、ピクセル画で椿を描きました。
規則的なパターンが可能なので、永遠にこの図柄を描き続けることが可能です。
プリント物などに適していますが、手ぬぐい製作の際は、版がいくつか必要になります。

背景の墨黒は、大島の大地を表現しています。
シンプルな構図にしているのは、あんこさんが頭に巻いた際に側頭部に椿の模様が来るように、ヘアアクセサリーのような見え方にするためです。
墨黒にすることで、髪色に馴染み、椿のみが浮き上がるようになればと考えました。椿の位置は、手ぬぐいの巻き方を確認してから調整する予定でまずはイメージを起こしました。

手ぬぐい一枚を絵のように見せるべくあんこさんを一筆で描きました。
赤丸は椿、緑丸は大島の大地、黒四角は市松模様、青四角は水を表しています。

2番目に登場したデザイン案に追加したものになります。
白線は大島の断面を表し、四本線にすることにより、通称バームクーヘンと呼ばれる地層切断面を表していますが、縦づかいにすることで、墨黒に白い線が落ちて来るように見えることで、水墨画の水の表現のような印象を与えています。

伝統的なソーメン絞りを元にしています。
水・椿・魚を表現しています。
下部の波線は、地層切断面を表現させていただきました。

こちらは、かなり普段使いをメインとしたものになります。
ドット柄の手ぬぐいに見えるようにしていますが、黒い丸は、正円ではなく椿の実の形をしていて差し色に椿のモチーフを配置させていただきました。

椿の実の配列が均等に並んでいるように見えますが、目を細めたり引きでみると、水の動きのように波打っているようにしています。

こちらの3点は、基本の考え方がおなじです。
お祝い事などに用いられる水引、この水引の基本結びの中に、椿結びというものがあります。この椿結びをデザインに落とし込みました。
全て水引のような線で描くのは、大島マークにするにはパワーがないと思いましたので、センターの編む部分を花のデザインにしたものを配置しました。

昔のあんこさんの姿が写っている写真を拝見させていただいた際に感じたこと、女性のみなさんが、あんこさんの姿で作業をされていて同じ可愛らしい姿で並んでいらっしゃるのが印象的でしたので、一枚の手ぬぐいの中に、シンプルに描かせていただきました。
少しお土産色が強いかもしれませんが、くすっと笑みが溢れるような雰囲気に仕上げました。

編集部
岡井さん、ありがとうございました!
何も知らない状態でデザインを見ていろいろ想像するのも楽しいですけど、実際にデザインされた方からデザインの説明を伺うことで、そのデザインがどういった意図で作られたものなのか、デザインの裏側を知ることができて、とても興味深いですね。この中から一つでも手ぬぐいとして製品化できたら素敵だなぁと思います。引き続きあんこさんをテーマにしたデザインプロジェクトに取り組んでいきたいと思います。

参考:「月刊 染織α 2006年 05月号」

Profile

岡井 一貴

KAZUKI OKAI

クリエイティブプロデュース、企画デザイン、制作

1973年生まれ
大阪、東京を中心に舞台美術・舞台監督・演出・美術デザイン等を行う。
2003年より音楽プロダクション代表を経て、2014年より再度クリエイターの道に転向。

現在、イベント企画、プロダクト企画デザイン、美術制作、空間演出装飾、など多方面で活躍中。