『探究Journey』からはじまる学びのデザイン

『探究Journey』は、自分なりの問いを立てて、自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く。
そんな自由でワクワクする自発的な思考の冒険である「探究型の学び」を「旅」の中で実践する、いわば“想像と探究の種を育てる旅”です。

冒険の舞台は「伊豆大島」。
ジオパークの島「伊豆大島」には探究心を掻き立てるポイントが盛りだくさん♫
過去の度重なる火山活動の痕跡、火山島での暮らしを通じて生まれた独特な風習や文化を辿りながら、想像と思考の翼を存分に広げていきます。

今回はそんな『探究Journey』の運営メンバーによる旅の振り返りと、これからの展望についてお話を伺いました。

『探究Journey』特設ページ

https://eco.his-j.com/journey/

メンバー紹介

矢萩邦彦

知窓学舎 塾長/実践教育ジャーナリスト/教養の未来研究所 所長/一般社団法人リベラルコンサルティング協議会 理事/ 聖学院中学校・高等学校 学習プログラムデザイナー/ラーンネット・エッジ「自由への教養」カリキュラムマネージャー
探究型学習・想像力教育・パラレルキャリアの第一人者。 25年間、20,000人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「興味開発と能力開発」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営。 「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な教育現場で出張授業・講演・研修・監修顧問などを展開。HISスタディツアーでは、探究型教育ナビゲータとして「探究的な学びの旅」である『探究Journey』を監修。 親子で探究心を育む旅づくりに取り組んでいます。

 知窓学舎 http://chisou-gakusha.jp
 教養の未来研究所 http://kmk.jp.net
 Yahoo!ニュース『越境ウォーカー』
https://news.yahoo.co.jp/byline/yahagikunihiko/
 note https://note.com/yahagikunihiko

大田原康裕

HIS法人旅行事業部ソリューション事業開発チーム。新規事業開発担当として、「旅」を通じた人材育成や教育、地域社会との繋がりづくり、地域活性、SDGsなど、幅広い領域を横断した旅行企画・事業開発に従事。『探究Journey』プロジェクトでは、探究型教育の実践者、地域のガイドや教育関係者などと共に、地域資産を生かした「探究的な学びの旅」づくりに取り組んでいます。

 スタディツアー https://eco.his-j.com/volunteer/
 エコツアー https://eco.his-j.com/eco/
 探究Journey https://eco.his-j.com/journey/

粕谷浩之

伊豆大島のダイビングガイド/「伊豆大島ジオパーク」認定ガイド/大島町公認ネイチャーガイド/星空ガイド
大島の陸・海・空それぞれの魅力を、同行者の年齢や興味に合わせて、楽しく、わかりやすくガイドすることがモットー。特に子供向けのガイドには定評があり、島内の小・中学校や保護者からの依頼を受けて地元の子供達に大島のことを幅広く知ってもらう活動にも力を入れています。

 ダイビング&ネイチャーガイド「オレンジフィッシュ」 http://www.ne.jp/asahi/orange/fish/
 伊豆大島ジオパーク http://www.izu-oshima.or.jp/geopark/

青山光一

伊豆大島でレモン農園を経営しつつ、長野県にある日本初のイエナプランスクールの大日向小学校にて若手の先生の育成、カリキュラムの作成、探究的な学びのデザイン、ICTを活用した学びの促進等に尽力。公立小学校での19年間の教員経験を生かし「公教育にイノベーションを」「伊豆大島から教育改革の狼煙をあげる」を自身のミッションとし、日々、農業と教育と薪割りに勤しんでいます。

 学校法人茂来学園 大日向小学校 しなのイエナプランスクール https://www.jenaplanschool.ac.jp
 note https://note.com/ao3451

1.「学びの場」としての大島の魅力とメンバーとの出会い

編集部
今回、伊豆大島で初ツアーを実施した『探究Journey』プロジェクトはHISさんの新規事業としてはじまりましたが、大田原さんはもともと東京の島に注目されていたのでしょうか?

大田原
はい、私たちHISの新規事業セクションでは「スタディツアー」や「エコツアー」といった商品名で通常の観光とは異なる旅づくりをしていまして、さまざまな地域や場所の調査を実施した上で、現地の方々との協業体制を築きながらコンセプトのしっかりした旅を企画・催行しています。
私たちは自分たちが実際に体験したものじゃないと説得力を出せないので、必ず下見に行って検証するのですが、そんな中で伊豆大島を視察する機会がありまして、旅行会社として大島はとても魅力あるエリアだという実感が湧いたんです。

実はそれまであまり東京諸島を意識していなかったのですが、都心から1時間45分で行ける近さなのに、火山島ならではの大自然に恵まれ、トレッキングをはじめとしたアクティビティはもちろん、NHKの「ブラタモリ」でも紹介されたジオパークとしての魅力や、ネイチャーガイド運営を通じた良質な学びの要素も多く、「学びの場」としてとてもポテンシャルの高い場所だと感じました。
そこでネイチャーガイドをされている粕谷さんと、長年学校教育に携わっていらっしゃる青山さんと出会う機会に恵まれまして、お二人や島の皆さんといろいろ話し合っていく中で、旅行会社として新しい学びの旅づくりがこの島なら実現できるのではないかと考えました。

裏砂漠」はすごいインパクトですし「地層切断面」は小学生の理科の教科書や図鑑にもよく掲載されていますよね。何より船に乗って行く「島旅」という非日常感を味わえるのも大きな魅力だと思います。

実は私個人的にも、小さな子供を持つ親の立場として、社会環境がどんどん変わってAIが出現したり、新しい仕事や働き方が生まれている中で、自分の子供にどんな教育をさせるべきかを考えることが多くなりまして。
そんな中「探究的な学び」を実践されている教育者の矢萩さんのお話を聞く機会があったのですが、そこでいろいろお話を伺っているうちに、まさに今後必要な学びだなぁと親として実感したんです。

それで、矢萩さんの実践的な「探究的な学び」のエッセンスを体験できる学びの旅を、大島で、粕谷さんや青山さんと一緒にやりたい!と思うに至りました。

編集部
大島が持つ魅力と粕谷さんと青山さんという現地のメンバー、そして矢萩さんとの出会いが『探究Journey』プロジェクトの始まりだったんですね。

2.伝えるべきことは「知識」ではなく「方法」

青山
実は今回初めて粕谷さんのガイドで大島を歩いたのですが、すごく面白くて深い学びを得ることができました。
僕は10年程大島の公立小学校の教員として教育に携わっていたのですが、大島のことをジオパークという視点で子供たちに何にも教えていなかったなぁと反省してしまうほどでした。

粕谷
最近は島内の学校からのガイド依頼も少しずつ増えてきています。
必ずしも今回の『探究Journey』のようなトレッキングガイドとは限らないのですが、大島をテーマにそれぞれの学年に見合った内容でガイドをお願いしたい、ということも多いです。
そんな時に心掛けているのは、一方的に自分の知識を伝えるのではなくって、子供たちに一緒に感じたり考えてもらえるようなガイドツアーです。

編集部
そう言われてみると、全国的にも学校向けのガイドツアーでガイドさんが知識を一方的に説明するパターンが多く、子供がすぐに飽きてしまったというお話を聞いた事があります。

粕谷
確かに今までのガイドさんって、自分が知っている「答え」を一方的に話すというやり方が一般的だったかもしれません。しかし、それはあくまでも「観光ガイド」であって、 大人には通用しても子供にとっては退屈だしつまらない。ましては興味のないものに対しては引かれちゃう恐れもあります。
「地球規模の魅力と学び」が多いジオパークをガイドするには、ただの観光ガイドとは違って「答え」もそうですが、その背景の「何故?どうして?」に気づいてもらう事がとても大事だと思っているんです。
まして相手が子供なら、それをとっても楽しく!わかりやすく!が重要なんです。

青山
「一方的に自分の知識を伝える」って、教壇から教科書に書いてあることを一方的に話す授業がつまらないことと一緒ですね。

粕谷
僕がガイドを行う上で大切にしていることは「お客さんと一緒に楽しむ」なんです。
私のことを“一緒に楽しむ旅の相棒”って思ってもらえればと思っています。
そんなスタイルが少しずつ伝わっているのか、以前は学校から依頼が入ることはほとんどなかったのですが、 学校や子供達からガイドをやって欲しいという依頼が口コミで少しずつ増えてきた実感があります。

編集部
「一緒に楽しむ」という視点はとても大切ですよね。
今回、探究学習の実践者である矢萩さん監修の大島ツアーを一緒に企画運営されましたが、実際に矢萩さんと一緒に回られていかがでしたか?

粕谷
はい、とても参考になったというか早速使わせてもらいたいものが山ほどありました。
私たちガイドはついつい喋り過ぎて伝え過ぎてしまうところがあるのですが、矢萩さんはそこをうまくコントロールされていて、全てを伝えずに子供たちが自ら疑問に感じたり、考えたりするきっかけを与えているところがとても素晴らしかったですね。

編集部
矢萩さんは以前、もともとご自身が経営されている会社でも『探究Journey』のような旅の企画をされたとお聞きしましたが、今回はイメージ通りの旅になりましたか?

矢萩
以前僕が関わっていた旅の企画というのは、現地の方々に協力していただいたものではあったのですが、今回のように現地で実際に教育に携わっている方や、現地の地理や自然をよく知り、専門ガイドとして活躍されている方はほとんどいなかったです。

ですから、チームとしていろいろな人がいて、それぞれのスペシャルな力が組み合わさって一つの空間を構築・共有できたことで様々な発見があり、この企画の可能性を実感することができました。

僕は、本来子供たちに伝えるべきことは「知識」ではなく「方法」だと思っています。
もちろん知識も大切ですが、今の時代、知識だけならばあらゆるところから拾ってこられます。
それらの知識を、人生のあらゆる場面で活用できる方法をこそ学んで欲しい。
そういう意味でも今回のツアーのように様々な分野の大人たちが関わっていることはとても有意義だと考えます。

僕が理想としている旅は、体験したり探究したり振り返ったり、様々な行動をみんなで一緒に実践する中で、お互いが持っている視点や方法をシェアし合って、それぞれ吸収し合ってアップデートして日常に持ち帰る。そうすることで、自分自身はもちろん日常自体が変わっていくような旅です。
だから、その旅を経て、自分が「勉強になったな」、「アップデートしたな」って思えることが絶対的に必要なんです。

先ほど冒頭で大田原さんが「自分たちが体験して、いいと思ったものしか説得力を出せない」っておっしゃったことって本当に根本じゃないですか。
教育者だって、自分たちが学んで「楽しかった」とか「使える」って思えたから教えたいっていう流れにしないと。テストに出るからとか、教科書に書いてあるから、ではなくてね。
自分が感動したからガイドする、だから伝わるわけですよね。
「探究的に生きている人しか探究を教えることはできない」ってよく言っているのですが、そのあたりも含めて今回の旅は本当に楽しいものになりました。

3.学校の現状と「探究型の学び」の方向性

編集部
青山さんはそのあたりをどうお考えですか?
学校ではなかなか「探究的な学び方」を実践できないジレンマがあったのではないかと思うのですが。

青山
学校には生徒が学ぶべきことが完全網羅的に設計されている「学習指導要領」というものがあります。
そこには学年ごとに必要な知識や必要な学びが全部詰め込まれているので、現場の先生方はそんな膨大な範囲を全て教えるためにどうすれば良いか、そこに集中させてしまいがちです。

ただ、最近は探究型の学びを少しづつ導入している先生が増えてきている気がします。
学校教育業界も矢萩さんのような探究型の学習に大きくシフトしている時期ではあるのですが、現場はまだまだ混沌としています。

そんな中で僕自身も迷いながら取り組んでいる最中なのですが、今回のツアーに同行させていただいて探究に対する理解がクリアになったというか、解像度が上がった気がしています。
一言で言うとやはり「知識を教えるのではなくて 学び方を提供する」そこに尽きると思います。
今回は保護者も一緒に同行したことで家庭教育にも踏み込んで行ける可能性を感じました。 僕としては三日間頭の中をぐるぐる巡らせながら様々なことが学べて、自分自身探究的に学べたので非常に学びの多い旅だったと思っています。

編集部
青山さんから「家庭教育にも踏み込んでいける可能性がある」とお話がありましたが、もともと矢萩さんも「親御さんに対して探究的な学びを教える機会を増やしていきたい」という考えもお持ちでしたよね。
子供は学校でいろいろ教えてもらえますが、親は教え方とか子供の接し方とか、特に探究的な学び方についての情報はなかなか教えてもらう機会がないですよね。

矢萩
今までは親御さんに方法を伝える機会は非常に少なかったのですが、これからの学びにおいては必須だと思っています。
子供たちが理解していない部分や気づいていない部分を、お父さんお母さんに感じてもらうことで、家庭に戻ってから子供と一緒に考えたり、伝えたりすることができます。
「探究型の学び」は誰でも同じフィールドでそれぞれ学ぶことができるものです。
それを学校で教科書や授業で実践するには方法も技術も必要になりますが、旅であれば誰にとっても非常に実践しやすく、しかもわかりやすいと思います。

今回の大島ツアーでも、木に登る子や道端に落ちていた棒に夢中になる子、写真を撮るのに夢中な子など、当然のことながらそれぞれ注目する対象が異なりました。
みんなで同じことを探究するのは難しいけれども、同じ場所で同じテーマでそれぞれの探究に取り組むことができるし、そのようなプロセスを経て一つのテーマをチームで完遂することもできるんです。

この感覚を持って教室に行ければ、教室での座学でもそのような探究ができるはずです。
それに気づいて実践する教育者がどんどん増えてきて欲しいですね。

青山
そうなんですよね。今矢萩さんがおっしゃっていたことって、探究学習やPBL(Project Based Learning)のど真ん中で、僕は教室の中から始める探究とかPBLの難しさを感じていたので最初は今回の『探究Journey』のように体験から始めるべきだと思っています。

私は今、長野県にある大日向(おおひなた)小学校の運営に携わっているのですが、そこではイエナプランというオランダ発祥の教育スタイルをベースとしています。
教室の中でやろうとすると一人の教員に負担がかかり運用が難しいのですが、今回のように旅という枠組みの中で行うと驚くほど自然にできてしまうなと。
今回のツアーを通じてそこに関わる全員(参加者親子、教員、ガイド、監修者、スタッフ)が何かしら一緒に学べることがわかりました。
今後教室に入った時に教師の中で繰り返し取り組んで行ける可能性も見えました。
これはもう学校も取り入れるべきではないかと思いました。いろんな教育に関わる人が探究学習を取り入れた方法として一つのモデルケースになるのでは、と思います。

矢萩
状況の変化に応じて対応することの必要性がどんどん高まっています。
ある人が「最近は変化の時代にあってビジネス成功の答えを上司が持っていないことも多い」という言い方をしてましたけど、まさにそうで、誰も答えを持っていない。
実は予測不可能で誰も答えを持っていないというのは昔からずっとあって、我々がそう認識していなかっただけなんだけれども、このコロナ禍によってみんなが認識するに至りましたよね。
では、そういうメタ認知(自分の感覚や行動を客観的に認識する力)をみんなができた状態で、これからの時代、より豊かな人生を歩んでいくためにどうしたらいいのか?っていう問いの1つの答えとして、教育もそうだし企業などの研修もそうだし、いろんなところで「答えのないものに立ち向かっていくための方法論」として探究型の学びが注目されはじめたわけです。

僕もいろいろな企業でPM(プロジェクトマネジメント)研修とかやりますけど、PMに求められていることって「答えのないものにどう立ち向かうのか」ってことなんです。ところが、その「答えをどう探したらよいか」とすぐに「答え」を求めてくるマネージャーが非常に多いのが現状なんです(苦笑)。

「未来は予測可能で、どんな問いにも模範解答がある」という「昭和の残像」のようなものがまだ色濃く残っていて、教育現場では特にその残像が強い印象があります。
だけど、若い先生たちは、「何かが違うぞ」ということは理解していて、でもその残像が強すぎて抗えないところがあるんですよね。

青山
おっしゃる通りですね。
僕もいわゆる残像が一番強く残っているのが皮肉なことに教育界だと思っています。