②三原山周辺

島の中央に位置し、現在も活動している活火山三原山。
標高764mとそれほど高くなく、登山道入口から山頂の火口付近までは約60分。登山道が舗装されているのでスニーカーでも気軽に登山を楽しめる山です。

その登山道と山頂周辺では、日当たりの良い環境を好む苔たちに出逢うことができます。

Caution - 注意 -

三原山周辺は国立公園の特別保護地区に指定されており、苔など植物の採取は禁止されています。生育しているままの状態で観察してください。

三原山登山道

「杉の木みたいな苔と、星型の苔」
登山道脇の日当たりの良い場所でよく見かけるのは、スギゴケの仲間「【馬杉苔】ウマスギゴケ」と、スナゴケの仲間「【蝦夷砂苔】エゾスナゴケ」。

スギゴケの仲間は、杉の木の葉っぱや苗のような形をしているところからそう呼ばれていて、苔庭などに良く使われる苔です。

その中でも「ウマスギゴケ」は大型の種類で、背の高い苔たちが集まっている様子は苔とは思えないかもしれません。

「エゾスナゴケ」は「砂苔」の名の通り、砂質の場所にも生育する日当たりの良い環境を好む苔で、葉の並ぶ様子を湿った状態で上から見ると金平糖のような形をしています。
その姿はまるで地上に散らばった星屑みたいでとても可愛らしく、苔界のスターともいわれています。

この苔は水分を吸収すると素早く葉を広げて可愛らしい姿になるので、乾燥したエゾスナゴケに出逢ったら、ぜひ霧吹きしてから写真を撮ってあげてください。

三原神社〜火口周辺

「溶岩表面の白い苔」
三原山の頂上にある三原神社周辺の溶岩をよく見ると、表面が白っぽくなっている部分があるのに気がつきます。
近づいて見ると、白っぽくザラザラとしたペンキ状のものの中に、葉先が白っぽくてフサフサした苔がかたまって生えているのを見つけられると思います。

これは「【霜降苔】シモフリゴケ」です。
(ちなみに白いザラザラのペンキ状のものは「地衣類(ちいるい)」と言って、苔ではなく菌類と藻類が共生した状態のものです)

その名前の通り、霜が降りたように白く見えるのは、やはり葉先に葉緑体がないためで、ルーペで見ると毛のような葉先が透明なのがよくわかります。
霧吹きで水をかけると、よりその透明感が感じられてオススメです。

このシモフリゴケは世界的に寒冷な場所に生育していて、日本では亜高山帯や高山帯という標高の高い場所で見られる苔の代表的な種です。

亜高山帯、高山帯というと、本州中部でだいたい1,500m以上の標高域になるので、三原山のような700m前後の標高でシモフリゴケに出逢えるのは、ある意味貴重かもしれません。三原山に登る時には、ぜひ探してみてください!

「触ると飛び跳ねる苔!?」
また同じように溶岩の表面でよくみられるのが「【大和筆苔】ヤマトフデゴケ」です。

名前の由来は、葉の集まる様子が筆の先っぽの形に似ているところから。

このツンツンと伸びた苔たちを優しく手で撫でると、葉がちぎれてピョンピョンと飛び散ります。そしてその葉っぱが飛び散った先でいい条件に恵まれると、新たな苔として成長していきます。

実は苔は、胞子や無性芽からだけではなく、ちぎれた葉からも新芽を出して成長する底ヂカラを持っている、凄い植物なんです。

Topic

シモフリゴケとヤマトフデゴケは、三原山の他にも、月と砂漠ラインから行く「櫛形山(くしがたやま)」周辺や、温泉ホテルルートから行く「ジオロックガーデン」付近でも見ることができます。

③港付近の街中

苔がたくさん生育している場所は、山や森など、自然の中をイメージする人が多いと思いますが、島の玄関口である元町港と岡田港周辺の市街地でも、ちょっと意識して見れば、たくさんの苔たちに逢うことができます。

「どこでも逢える身近な存在」
元町や岡田港の周辺でも、裏路地の歩道、ブロック塀、雨どいの下、排水溝の出口、壁のひび割れの隙間などなど。自分たちが生きるのに快適な場所を見つけて生育している苔たちを見つけることができます。

前にもちょっと触れましたが、苔は体全体から直接水分を吸収します。

苔には仮根(かこん)という他の植物でいう根のような構造があるのですが、それは岩やブロック塀、地面にしがみつくための機能がメインであって、土から水を吸い上げる機能はありません。

だから、岩の上や塀の表面など土がないところでも、雨水や霧など何らかの形で水分を獲得出来さえすれば、仮根でしがみついて、元気に生き抜くことができるのです。

そうやって街中の苔があるところをみてみると、他の植物が生育出来ないような、わずかな隙間や水分が集まりそうな場所を見つけて、ひっそりと、でも元気に生きているんです。
苔って意外と健気(けなげ)でたくましいんですよ!

「大島で出逢った街中の苔たち」

苔継ぎ
建物のヒビ割れをみつけ、その隙間を縦横無尽に埋め尽くして生きている苔たち。それがまた、人工物と自然が融合したアートのようにも見えます。
陶器のヒビ割れを金で埋めて補修する伝統的な修復技法「金継ぎ」ならぬ、建物の壁を修復しているようなその様子を、苔好きたちの間では「苔継ぎ」と呼ぶ人もいます。(写真は三原神社の社(やしろ)のヒビに添うように生える「ハマキゴケ」)

空気孔の苔
ちょっとした隙間を見つけ、群落を拡げる「ゼニゴケ」たちのかくれんぼ。君たち見えてますよ!

植木ポッド内のツノゴケの仲間
建大島町役場裏の植木ポッドや大島警察署前の植え込みの中では、普段なかなかお目にかかれない「【角苔】ツノゴケ」の仲間に出逢うことが出来ました!

苔旅はここからはじまる!

大島では、さまざまな環境を好んでそこで生育する苔たちに気軽に出逢うことが出来ます。

森や神社の中はもちろん、三原山周辺の溶岩地帯や、港周辺の市街地でも、どこでも。しかも各ポイント間の距離が近いので、短時間で異なる環境の苔たちと触れ合うことが出来るというメリットもあります。

そして大島から戻ったら、竹芝桟橋から自宅までの帰り道、ちょっと気をつけて周囲を探してみてください。意外にたくさんの苔たちを見つけることができるはずです。

大島での苔旅をきっかけにして、小さな世界に広がる、大きな生命力を感じ、苔の美しさや力強さ、時には優しさを感じて頂けたら幸いです。

大島での苔旅をきっかけにして、小さな世界に広がる、大きな生命力を感じ、苔の美しさや力強さ、時には優しさを感じて頂けたら幸いです。

まずは苔の存在を意識することで、誰でも、どこでも、いつでもはじめられる旅。
そう、苔の旅はここから始まります!
楽しい苔ライフを!!

ナビゲイター

石倉良信

いしくらよしのぶ

俳優として舞台やテレビなどで活躍する傍ら苔マニアとしても有名。
TBSのテレビ番組「マツコの知らない世界」に出演し話題となったことで、「苔役者」の愛称で呼ばれることも多い。
自身のオフィシャルHP「苔園」
YouTubeチャンネル「苔道チャンネル」
イベントやメディアを通じて、奥深い苔の魅力を楽しく発信している。

監修

上野健

うえのたけし

日本蘚苔類学会会員・都留文科大学非常勤講師。専門は植物生態学。
長年にわたって苔の研究(生態学)に取り組みながら、苔の魅力に幅広く触れてもらう活動として「苔をみる旅(苔旅)」の案内人としても活動。
苔旅の情報はオフィシャルブログ「コケの論理(ロジック)」苔をみる旅のFacebookページにて。
共著に「コケの手帳(のぎへんのほん)」(研成社)、絵本「こけをみつけたよ」(かがくのとも)では監修を務める。

大島での苔観察の注意事項

苔を観察する場合には、切り取ったりせずに生育しているままの状態で観察するようにしましょう。
ここで紹介する大島の苔スポットは、地域で大切にされている神聖な場所や、国立公園の特別保護地区、一般の方の私有地になりますので、ありのままの自然の苔の姿を楽しむようにしてください。
また特に春から秋にかけては、マムシ、チャドクガ、ハチ、蚊、ダニ等にご注意ください。

\あわせてチェック!/

泉津

神秘の森と光に包まれた場所

島の東側に位置する「泉津」には神話や伝説の舞台となったパワースポットや海岸沿いの美しい風景が広がる絶景遊歩道など、楽しめるスポットが点在しています。

詳しく見る

伊豆大島のシンボル『三原山』をトレッキング!

三原山トレッキング

大自然を感じるよろこび、ジオパークを歩く!

伊豆大島は島全体が活火山。その中でも島の中央に位置する『三原山』は、島民に御神火様として崇められてきた、まさにシンボルともいえる山です。今回はそんな三原山へトレッキングに出掛けます!

詳しく見る

日本唯一の砂漠『裏砂漠』

日本唯一の砂漠『裏砂漠』

国土地理院が発行する地図に日本で唯一「砂漠」と表記

「裏砂漠」は国土地理院が発行する地図に唯一「砂漠」と表記された場所です。伊豆大島の象徴ともいえる三原山の度重なる噴火によって降り注いだマグマのしぶきが大地を焼き、植物を燃やし、一面黒い世界を作り上げています。噴火後も風が強く吹きぬける場所であるため、植物が定着しにくく、いわゆる“砂漠”的な光景がひろがっています。

詳しく見る