TBS「マツコの知らない世界」で苔(コケ)への愛を熱く語った苔マニア俳優石倉良信さんが、苔旅ナビゲイターとして、大島でよく見られる苔たちを紹介してくれました。(監修:上野健、撮影協力:吉田有沙)
絶景のミクロワールドへようこそ!
こんにちは!苔俳優の石倉良信です。
皆さんは苔を意識して見たことはありますか?
苔は小さいけれど、近くで見るととっても美しくて、その形も個性的でさまざま。地球上にはなんと!約20,000種、日本だけでも1,900種程度の苔が生育しているんです。
伊豆大島にも様々な苔が生育していますので、ぜひ大島で魅力的な苔の世界に一歩踏み込んでみてください!
苔の世界を覗いてみよう!
苔を観察するのにぜひ用意して欲しいのは、ルーペと霧吹きです。
ルーペと霧吹きさえあれば、手軽に苔の世界を旅することが出来るんです。
ルーペは、10倍程度のものがおすすめ。
コンパクトに折りたためるものを一つ持っておけばずっと使えるし、スマホのレンズにルーペをくっつけて撮れば、簡単に苔のアップ写真が撮れるので便利ですよ。
霧吹きは、苔に水をあげるためのアイテムです。
苔は葉っぱ(植物体全体)から直接水を吸収するので、乾いて葉っぱが縮まった苔に霧吹きで水をかけてあげると、水を吸収した葉っぱが膨らんで元に戻る様子が肉眼でも見られます。
また、写真を撮るときにも一吹きしてから撮ると、見違えるほどみずみずしく美しい苔が撮れるのでオススメです。
大島で出逢える苔たち
それでは、島内の主要観光スポットで見られる代表的な苔たちをいくつか紹介していきたいと思います。
①泉津(せんず)エリア
島の北東部、泉津エリアの「泉津の切り通し」や「波治加麻(はじかま)神社」は、神秘的な雰囲気が漂う人気スポット。
周囲の樹木に日光が遮られ、一定の湿度が保たれる環境のため、様々な苔たちを見つけることができます。
泉津の切り通し
「自然が創り出した木と苔の壁画」
ここを抜けるとジブリの世界に連れて行ってくれそうな階段。
両側にある椎の木(スダジイ)の根っこがなんとも神秘的なんです。
ここですぐに見つけることができるのが「【大蛇苔】オオジャゴケ」。
植物体の表面が蛇のウロコのように見えるところが名前の由来です。ジャゴケの仲間の中でも大型のオオジャゴケの群落がまさに大蛇のように勇ましく這っています。
「ジャゴケはキノコの香り!?」
ジャゴケの仲間には植物体を指でこするとマツタケのような香りがするものがあります。それはマツタケオールと言って、マツタケと同じ香りの成分を持っているからなのです。
残念ながらオオジャゴケはキノコのような香りが微かにあるものの、どちらかというとハーブっぽい香りがするかな。
なので、もしジャゴケの仲間を見つけたら、怖れずに指でこすって香りを確かめてみてください。(ただし、あまり強く押したり擦ったりすると葉が潰れてしまうので、優しく接してくださいね)
波治加麻(はじかま)神社
「参道に拡がるオオジャゴケの群落」
神社の鳥居の前に立ってまず目を引くのは、参道に広がるオオジャゴケの仲間の群落。両脇に杉の木が立ち並ぶ苔むした参道には神秘的な雰囲気が漂います。
ここでは、ジャゴケの仲間に形は似てるけど、蛇のウロコ模様がなく表面がツルっとしている「【銭苔】ゼニゴケ」を見つけることができます。
「銭苔」の名前は、江戸時代に使われていた苔の名前「地銭」がそのまま残っているものと思われます。これも元々は古い中国の書物に書かれていた名前で、この苔の姿が昔のお金の形に見えたのかもしれませんね。
ゼニゴケのメス株の生殖器官は、ヤシの木みたいで可愛いですよ!
「杉の木にはフサフサ系」
そして苔を踏まないように注意深く参道を進みながら、参道の左右に並ぶ杉の樹皮にも注目してみてください。よく見るとフサフサした苔が見つけられると思います。
よくみるとフサフサの苔には大小2種類あって、葉が大きな方が「【細葉翁苔】ホソバオキナゴケ」、小さくて細かい方が「【獅子苔】シシゴケ」です。
この2つは見た目がちょっと似ているけど、ホソバオキナゴケの方が葉が大きくて厚いです。そして、ホソバオキナゴケの葉の表面には葉緑体をもたない細胞が並んでいるので、白っぽい緑に見えます。乾いた状態になると、白っぽさが際立つのが特徴です。
ホソバオキナゴケは漢字で書くと「細葉翁苔」。白っぽい特徴を白ヒゲのおじいちゃんに見立てているわけです。
苔の和名は、だいたいが見た目でつけられているのが面白いところです。
一方シシゴケは、ホソバオキナゴケより葉が小さくて細いです。
ただし、シシゴケも葉の表面に葉緑体をもたない細胞が多く、色はホソバオキナゴケに似てやや白っぽい緑。こちらも乾燥すると、白っぽく見えます。
「獅子苔」の名前の由来は、正確なところは分かりませんが、植物体の先端部分に作られる細長い無性芽が放射状に広がっている様子をライオンのたてがみに見立てているという説があるようです。
どちらの苔も乾燥に強いのですが、特にホソバオキナゴケは乾いても葉が縮れず、見た目の形もあまり変わらない苔なので、盆栽や苔玉などにも良く使われている人気の苔です。
また、生き生きとしたシシゴケはルーペで見ると芝生の草原に立っているような気持ちになれます。杉の木を見つけたら要チェックです!
苔の石垣
「濡れると色が変わる苔!?」
神社内を見終わったら、鳥居を出て、一周道路までの道沿いの石垣を覆う苔たちにも注目してみてください。
ここには石垣を一面覆うように主に「【葉巻苔】ハマキゴケ」が勢力を拡げています。
ハマキゴケは乾燥すると葉を内側に折りたたみ、全体としてくるりと巻いた状態になるところが名前の由来で、ちょっと面白い性質があるんです。
それは、ふだん乾燥している状態では葉の裏面が見えて茶色っぽい苔なのですが、雨が降ったりして水に濡れると、内側に折りたたまれていた緑色の葉の表面が外に出てきて、見る見るうちにみずみずしい緑色に変わるんです。
そう!ここで霧吹きが活躍します。
ルーペで苔を覗きながら霧吹きで水を吹きかけてみてください。
すると、乾燥していたお茶っ葉がお湯でじわーっと広がるように、内側の緑の葉が広がってくる様子が良くわかります。
そしてオススメは動画撮影。スマホのレンズにルーペを寄せて撮影すれば、その変化の様子を動画に収めることができます。
ぜひチャレンジしてみてください!
「ハマキゴケアート」
ハマキゴケは霧吹きを吹いて濡れたところだけが緑色になるので、ハートや文字など、アイデア次第で自分だけの苔アートが楽しめます。
ハマキゴケはコンクリートの壁面や石垣などを一面覆うように生えていることが多いので、茶色いっぽい苔に覆われた壁面を見つけたら、迷わず水を吹きかけてみてくださいね!
「苔界のおじいちゃん」
そして、波治加麻神社近くの石垣には「【銀苔】ギンゴケ」もいるので、ぜひ探してみてください。
見つけ方はカンタン!白っぽい苔のかたまりがギンゴケです。
葉先は葉緑体がないために透明なのですが、光の加減で先端(場合によっては体全体)が白銀にみえることから「銀苔」といわれています。
乾けば乾くほど白っぽく見えて、そのシブい雰囲気は苔界の頑固ジジイ的存在。
苔好きの中では「銀さん」と親しみを込めて呼んでいる人もいます。
このギンゴケは、陸地のあらゆる場所に生育していて、車が行き交うコンクリートジャングルの都会から富士山の頂上まで、はたまた北極や南極という最果ての地まで、過酷な環境の中でも生き抜くことが出来る、とても根性のある苔なのです。
あなたの住んでいる場所の近所でもきっと見つけられると思いますよ!