くさや

発酵食「くさや」

伊豆諸島でのみ製造される「くさや」。

その独特な香りと旨みは好きな人にとってはくせになる美味しさ。
だけど、なれない人にとってはなかなか馴染めない個性あふれる食材。

そんなユニークな魅力をもっている「くさや」のこと、ご紹介します。

伊豆大島を流れる清麗な海水は、塩づくりに最適といえるのです。

「くさや」とは

くさやはその昔、離島の厳しい日々の暮らしの中から生まれました。

大切な食料であった魚をより長く保存するために、桶の中の塩水に漬け込んで干し、干物にしていました。塩や水はとても貴重であったため、一度使った塩水に塩を足しつつ何度も漬け込みを繰り返すうち、魚の成分から微生物が発生・作用し、塩水が発酵、ついには独特な香りと味をもった「くさや液」が出来上がりました。

このくさや液の手入れは、主に女性が日々培ってきた感覚で維持・保存されてきました。まさに、ぬかみその手入れに近いと言えます。ぬかみその味がその家の嫁さんの腕で決まるように、くさや液は島の嫁入り道具のひとつになったほど。また、くさや液は古いものほど良いとされ、二百年以上前から手入れ保存されているものもあるのです。

発酵食は栄養価が高いですが、くさやも良質のたんぱく質、カルシウム、アミノ酸などが一般的な干物に比べて豊富。特にカルシウムはあじの開きの20倍以上あり、骨や歯の形成、皮膚炎にも良いとされています。発酵菌の効果もありビタミンB群も豊富で、疲労回復や体を若返らせる効果が期待できます。

「くさや」の歴史

昔、ミサゴという鷲ぐらいの大きさの海鷹が、捕った魚の残りを岩陰に隠していました、これに海水がかかり自然発酵したものを漁師が見つけ食べたのが、くさやの発祥とする文献が残っています。

江戸中期以降、塩は特に高価で、大島は古来、水にも乏しかったので、幕府への献上品であった塩干魚は一回漬の塩水を使ったものが献上されていました。

一方、何度も漬けた塩水、いわゆる「くさや液」を使った干物「くさや」は自家用や島内供給用として食されていたそうです。それでも、一部の「くさや」が江戸に運ばれることもあり、江戸っ子の中にもファンがいたようです。

「くさや」製造現場

くさやを製造している業者は伊豆大島の南部、波浮港地区に集中しており、今回訪れた製造業者さんも波浮港地区に事業所を構えています。

訪れた日はちょうど波浮港であがったとび魚や、三宅島近海であがったアオムロアジを、女性たちが手際よくさばいていました。くさやづくりには新鮮な魚が不可欠なのです。

さばいた後は井戸水で魚をよく洗い、いよいよ秘伝のくさや液に漬込みます。

くさや液に漬けるのは、ご主人の仕事。魚が重ならないようにと確認しながら、手で一枚一枚液に漬けこみます。

このくさや液、ときおりボコボコ音を立てながら泡ぶくを出していました。まさに発酵菌が活発に活動しているのでしょう。

漬け込んだ後は、水洗いをし、乾燥させて完成。特に十月から春先にかけての天日干しは最高です。

くさや液は毎日継ぎ足して使ってきました。魚を漬けすぎても液はダメになるし、その逆でもダメなのだそう。ぬか漬けと一緒で、毎日いい塩梅で手を入れていかなくてはならないそうです。

「くさや」いただきます

独特な香りと芳醇な旨味溢れるくさやは島焼酎はもちろん、白ワインとの相性も抜群。それは、外皮を塩水やマール、ワインやブランデーなどの酒で洗いながら熟成させるウォッシュチーズと製法が似ているからかもしれない。

偶然からうまれたくさやは、コアなファンを中心に今後も愛され続けていくことでしょう。